若い頃好きだった『海がきこえる』がリバイバル上映








 個人的な話で恐縮ですが、『海がきこえる』はぼくにとって、若い時代に出会った大切な作品のひとつです。
 作中のような体験をしたわけではありませんが、TV放映時に録画しておいた映像は何回も見て、友達に普及もしました。

 LDもDVDも買いましたが、特典映像だけ見て、本編はもう20年いやひょっとしたら30年は見返していませんでした。

 今回のリバイバル上映に際し、思い出は思い出のままとっておこうか、という気持ちも働きました。



 氷室さんは原作続編のあとがきで、40歳過ぎの男性から「青春時代を思い出して泣けてきた」旨の感想を貰い、「私はそんな、四十男の心を震わせられるような筆力のある作家じゃないです」と謙遜していましたが、ぼくはもう・その40歳すらとうの昔に過ぎてしまいました。

 そして、本作を「私がゼロになるための作品でした」と言っていた氷室さんは早世。


 まあそれでも、スクリーンで見る機会は2度とないかもしれないし、避暑を兼ねて劇場に足を運びました。

 ビックリすることに、序盤のストーリーをほぼほぼ忘れていた…
 印象的なシーンはいくつも記憶しているのですが、序盤の話は全く覚えていませんでした。

 状差しに入っているハガキの郵便番号が5桁だったり、ピンク電話を見て「まだ携帯が普及する前だったか…」とか時間の流れを感じながら、徐々にストーリーを思い出していきました。

 スクリーンで見ると、テニスシーンのモブがあまりにもモブだった発見もあったり。
 でも、そんなことも微笑ましく見ました。

 宮崎駿監督は、本作を「『こうある』じゃない、『こうあるべき』を描くんだ」旨の批判をしたらしいけれど、そう言って近藤喜文さんを監督に据えた『耳をすませば』より、ぼくは本作の方が断然好きです。

 原作からして・氷室さんいわく「ともかく、オーバーアクションじゃない、気分のまんま、ビルディングス・ロマン風に男の子たちが目覚めて、僕たちこうやって生きていこうよというのでもない、いくつかのリアルな気分、それの寄せ集めのような作品です」(『氷室冴子読本』32P)と語っているので、「こうある」と制作するのが好ましいアニメ化だったと思います。

 そして視聴者(というかぼく個人)にとっては、「こうある」だが実際には「決してない」という二重構造が良かったのです。


 氷室さんと言えば、「生理の初日が重いの」が「どうでもいいと思っている男に言うセリフ」と書いていて、読んでビックリしたこともありました。
 当時のぼくは、「気を許している、好きな男の子だからこそ言うセリフ」だと思い込んでいたので…

 でも今回見ると、表情が全然「好きな男の子」向けのものじゃないし、女友だちの小浜さんにすら言ってないんだよね。

 ストーリーに関しては、特にもう今更感動はありませんでした。
 もちろん作品が悪いとかじゃありません。過去に何回も見たのだから当たり前です。

 「あれっ、記憶より里伽子の顔『美少女』じゃないな」
 「ああそうだった、こう展開するんだった」

 といった確認しながらの視聴でした。

 拓は松野に憧れていて、その松野があっさり(出会ったその時から!)里伽子に落ちたのが気に食わなくて、しかもその里伽子が我儘で厄介な女で、でも自分も惹かれてしまって…

 という心情は、昔より今回の方が手に取るように分かりました。
 でも、そこに共感して・自分とキャラクターの心情を重ねるには、ぼくはもう年をとりすぎています。

 昔と比べて、かなり遠くの視点から『海がきこえる』を見ていました。
 それも仕方ないでしょう。ぼくは、リアルでは子どもですら、もう高校生でもないのです。しかもこの作品が好きだった(当然今も好きですが)、ノスタルジーが邪魔をする。

 里伽子にしても、「あーこういう女の子に振り回される男子いそう、魅力的だろうなー」と思っていたのが、数十年経つと「背伸びしている女の子だな、辛そうだな」って見えちゃうもんね(笑)。そりゃ仕方がない。

 昔の・自分の解釈が分からないところもありました。以前は、全肯定していた作品なのですが。
 今回見直すと、高校時代の拓と里伽子のエピソードは、拓が里伽子にビンタされるエピソードで終ります。

 その後はナレーションベースで、特に仲直りした説明もありません。

 あのシーンは里伽子視点だと、「同級生に詰められている自分を助けなかった」「自分のことを好きなくせに、友人に遠慮した(友人の方を選んだ)」からの平手打ちで、けっこう決定的な亀裂です。

 説明無しには、「東京に会いたい人がいる」に繋がるには無理があると思うけれど、昔のぼくはどう納得していたんだろう(笑)。

 ちなみに高校生の恋愛にしては「性」の視点がごっそり抜け落ちていますが、当時はそこにも好意的でした。
 まあ今回も、そこの気持ちは変わらないかな。



 それと今見ても、大学生になってからの女性陣の・垢抜けたキャラデザの変化は素晴らしかったです。
 なんか清水さんとか、大学進学後の個人的なストーリーを連想できそうなくらいのキャラデザですよね。

 それと映画館の大音量で、劇伴の良さも再確認しました。
 特にトランペットが印象的なBGM(2か所)、的確に観客の心情を煽ってくれます。


 今回は文章の繋がりも考慮せず、つらつらと書きました。読みにくかったらごめんなさい。

 若い時代に大好きになり、そのまま心のどこかにしまっておきたい作品がいくつかあります。
 『海がきこえる』も、そんな作品のひとつです。

 今回、劇場で見て良かったと思います。

 どこか違和感があり、だからこそ「エトランゼ・里伽子」を感じさせる坂本さんの声音。

 「性」に関してはオミットするのに、飲酒は描く「選択」。

 拓が風呂場で寝ていたことを知った時の、松野の反応。

 淡い印象を与える背景美術。

 地方都市の雰囲気。

 駅ホームで2人が再開する時の、あの印象的なカメラワーク。

 望月監督が作詞した、本編鑑賞後の余韻に寄り添う主題歌。

 全てが良かったです。

 やっぱり良い思い出になっています。でも、数十年ぶりに、良かったことを確認できたので。思い出を再び振り返ることはないかもしれません。

 ガンダムや必殺シリーズは今でもしがんで楽しんでいるのに(笑)、なぜ『海がきこえる』はこのまましまっておこうと思うんだろう。

 自分でも分かりません。
 実際には友情ごっこの経験どころか同窓会に出たこともないし、厄介な女性に振り回されたこともないのに。

 分からないけれど、たぶん、もう見返さないような気がします。
 今回の劇場での鑑賞が、良い経験だったので。

 某小説の末尾を借ります。「もう、ふたたびお目にかかりません。」

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海がきこえる [Blu-ray] - 望月智充
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海がきこえる〈新装版〉 (徳間文庫 トクマの特選!) - 氷室冴子
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海がきこえるⅡ アイがあるから〈新装版〉 (徳間文庫 トクマの特選!) - 氷室冴子
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海がきこえる THE VISUAL COLLECTION - スタジオジブリ
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