若い頃好きだった『海がきこえる』がリバイバル上映
個人的な話で恐縮ですが、『海がきこえる』はぼくにとって、若い時代に出会った大切な作品のひとつです。
作中のような体験をしたわけではありませんが、TV放映時に録画しておいた映像は何回も見て、友達に普及もしました。
LDもDVDも買いましたが、特典映像だけ見て、本編はもう20年いやひょっとしたら30年は見返していませんでした。
今回のリバイバル上映に際し、思い出は思い出のままとっておこうか、という気持ちも働きました。
いやー、『海がきこえる』の劇場上映どうする?
— 坂井哲也 (@sakaitetsu) July 3, 2025
LDでもDVDでも持っている好きな作品だけれど。思い出は思い出でとっておいて、見返さない? それとももう2度とない機会かもしれないから、見に行く?
氷室さんは原作続編のあとがきで、40歳過ぎの男性から「青春時代を思い出して泣けてきた」旨の感想を貰い、「私はそんな、四十男の心を震わせられるような筆力のある作家じゃないです」と謙遜していましたが、ぼくはもう・その40歳すらとうの昔に過ぎてしまいました。
そして、本作を「私がゼロになるための作品でした」と言っていた氷室さんは早世。
まあそれでも、スクリーンで見る機会は2度とないかもしれないし、避暑を兼ねて劇場に足を運びました。
ビックリすることに、序盤のストーリーをほぼほぼ忘れていた…
印象的なシーンはいくつも記憶しているのですが、序盤の話は全く覚えていませんでした。
状差しに入っているハガキの郵便番号が5桁だったり、ピンク電話を見て「まだ携帯が普及する前だったか…」とか時間の流れを感じながら、徐々にストーリーを思い出していきました。
スクリーンで見ると、テニスシーンのモブがあまりにもモブだった発見もあったり。
でも、そんなことも微笑ましく見ました。
宮崎駿監督は、本作を「『こうある』じゃない、『こうあるべき』を描くんだ」旨の批判をしたらしいけれど、そう言って近藤喜文さんを監督に据えた『耳をすませば』より、ぼくは本作の方が断然好きです。
原作からして・氷室さんいわく「ともかく、オーバーアクションじゃない、気分のまんま、ビルディングス・ロマン風に男の子たちが目覚めて、僕たちこうやって生きていこうよというのでもない、いくつかのリアルな気分、それの寄せ集めのような作品です」(『氷室冴子読本』32P)と語っているので、「こうある」と制作するのが好ましいアニメ化だったと思います。
そして視聴者(というかぼく個人)にとっては、「こうある」だが実際には「決してない」という二重構造が良かったのです。
氷室さんと言えば、「生理の初日が重いの」が「どうでもいいと思っている男に言うセリフ」と書いていて、読んでビックリしたこともありました。
当時のぼくは、「気を許している、好きな男の子だからこそ言うセリフ」だと思い込んでいたので…
でも今回見ると、表情が全然「好きな男の子」向けのものじゃないし、女友だちの小浜さんにすら言ってないんだよね。
ストーリーに関しては、特にもう今更感動はありませんでした。
もちろん作品が悪いとかじゃありません。過去に何回も見たのだから当たり前です。
「あれっ、記憶より里伽子の顔『美少女』じゃないな」
「ああそうだった、こう展開するんだった」
といった確認しながらの視聴でした。
拓は松野に憧れていて、その松野があっさり(出会ったその時から!)里伽子に落ちたのが気に食わなくて、しかもその里伽子が我儘で厄介な女で、でも自分も惹かれてしまって…
という心情は、昔より今回の方が手に取るように分かりました。
でも、そこに共感して・自分とキャラクターの心情を重ねるには、ぼくはもう年をとりすぎています。
昔と比べて、かなり遠くの視点から『海がきこえる』を見ていました。
それも仕方ないでしょう。ぼくは、リアルでは子どもですら、もう高校生でもないのです。しかもこの作品が好きだった(当然今も好きですが)、ノスタルジーが邪魔をする。
里伽子にしても、「あーこういう女の子に振り回される男子いそう、魅力的だろうなー」と思っていたのが、数十年経つと「背伸びしている女の子だな、辛そうだな」って見えちゃうもんね(笑)。そりゃ仕方がない。
昔の・自分の解釈が分からないところもありました。以前は、全肯定していた作品なのですが。
今回見直すと、高校時代の拓と里伽子のエピソードは、拓が里伽子にビンタされるエピソードで終ります。
その後はナレーションベースで、特に仲直りした説明もありません。
あのシーンは里伽子視点だと、「同級生に詰められている自分を助けなかった」「自分のことを好きなくせに、友人に遠慮した(友人の方を選んだ)」からの平手打ちで、けっこう決定的な亀裂です。
説明無しには、「東京に会いたい人がいる」に繋がるには無理があると思うけれど、昔のぼくはどう納得していたんだろう(笑)。
ちなみに高校生の恋愛にしては「性」の視点がごっそり抜け落ちていますが、当時はそこにも好意的でした。
まあ今回も、そこの気持ちは変わらないかな。
それと今見ても、大学生になってからの女性陣の・垢抜けたキャラデザの変化は素晴らしかったです。
なんか清水さんとか、大学進学後の個人的なストーリーを連想できそうなくらいのキャラデザですよね。
それと映画館の大音量で、劇伴の良さも再確認しました。
特にトランペットが印象的なBGM(2か所)、的確に観客の心情を煽ってくれます。
今回は文章の繋がりも考慮せず、つらつらと書きました。読みにくかったらごめんなさい。
若い時代に大好きになり、そのまま心のどこかにしまっておきたい作品がいくつかあります。
『海がきこえる』も、そんな作品のひとつです。
今回、劇場で見て良かったと思います。
どこか違和感があり、だからこそ「エトランゼ・里伽子」を感じさせる坂本さんの声音。
「性」に関してはオミットするのに、飲酒は描く「選択」。
拓が風呂場で寝ていたことを知った時の、松野の反応。
淡い印象を与える背景美術。
地方都市の雰囲気。
駅ホームで2人が再開する時の、あの印象的なカメラワーク。
望月監督が作詞した、本編鑑賞後の余韻に寄り添う主題歌。
全てが良かったです。
やっぱり良い思い出になっています。でも、数十年ぶりに、良かったことを確認できたので。思い出を再び振り返ることはないかもしれません。
ガンダムや必殺シリーズは今でもしがんで楽しんでいるのに(笑)、なぜ『海がきこえる』はこのまましまっておこうと思うんだろう。
自分でも分かりません。
実際には友情ごっこの経験どころか同窓会に出たこともないし、厄介な女性に振り回されたこともないのに。
分からないけれど、たぶん、もう見返さないような気がします。
今回の劇場での鑑賞が、良い経験だったので。
某小説の末尾を借ります。「もう、ふたたびお目にかかりません。」
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